『日本人という呪縛』について

 (1)本日は読みかけの本ですが、紹介したいと思います。ただ、この頃は書く時間もないくらいに、俗事に忙殺されていますので、著書の文言を記す(「 」で示す)ことが中心となります。

 その本とはデニス・ウェストフィールド『日本人という呪縛』(徳間書店、2023年)であります。本書は、外国人の日本人論の中では、特異なものであり、秀逸であります。特異ということでは、多くの外国人の日本人論は、(a)西洋人的な価値観から見て全面的に日本を見下すもの、(b)日本的なものを全面的に賛美するもの、のどちらかになりがちですが、この本はそのどちらでもなく、(c)日本的なものを賛美するものの、そこには問題があるとする、という立場のものです。

 著者はオーストラリア人で、日本に何年も住んでいて、日本の特異な価値を認めつつも、その中に日本が乗り越えなければならない困難を見出し、ともに考えていこう、と言って著者が考えている解決策を提示して、これでどうかと誘う書です。こういうところが、私が日頃考えているところと一致するところであり、その意味では先を越されたな、という感は受けます。とは言っても、すべてが同意することばかりではないため、私がこれからしようとする道は残されていることになります。

 (2)著者が感じる現在の日本人の問題点としては、次があります。
〇「いきいきとした躍動感や自信が感じられない」。
〇「役人は制度に縛られて、自由に動けず、政治家も現状の体制を改革しようとはしない」。
〇「本来、自由を謳歌するはずの人生なのに、日本人は本来の自由を知らず、制度をひたすら守り、過剰に働き、苦痛を忍び、権威や因習に服従することをよしとしている」。
〇「海外に住んでいる一般の日本人の多くは、日本に一時帰国する際、公共の場所などでは暗黙のマナーが強要され、何か間違った振る舞いをしていないか、常に緊張感を強いられる、という」。

 (3)以上は一般的な指摘ですが、その具体的問題点としては、次があります。
〇「日本で精神疾患を有する総患者数は約419万人(2022年)もいる。実に29人に1人が精神疾患を持っている」。
〇「10万人当たりの自殺者を示す自殺率は17.5(男性24.3、女性は11.1)となっており、先進国中では例年トップクラスだ」。
〇「国際機関SDSNによる「世界幸福度報告書(World Happiness Report)」2023年版によると、幸福度ランキングで日本は137カ国・地域中47位だった。主要7カ国(G7)では最下位だ」。

〇「引きこもり状態にある日本人は現在約150万人もおり、一人暮らし所帯は既に全所帯の3分の1以上に上る。2040年までに人口の半分が単身になり、毎年4万人が一人で死んでいく」。
〇「これらの悲しい状況は、外国人でも、日本で生活していると、想像できることである。日本人の特徴は、人々が社会的自由を縛られ、自己肯定感が低いことである。それがこうしたデータの背後に隠れている」。

 (4)上記で著者が指摘するものは、日本の暗部とも言えるものであり、それに対する何等かの対策が必要であるが、日本の社会または政治はそれに対して表立っては動こうとはしていません。なぜそうなるのか、そこには日本人が知らずに課せられている「呪縛」があるからだ、と著者は断定します。「日本人を縛り続けているもの……気づいたのは「日本人は呪縛を抱いて生きている」ということだ。筆者はそれを「The curse of Japaneseness(日本人という呪縛)」と呼ぶ」。

 (5)第1章から第9章までは、その各論ということになります。「日本人という呪縛」がいかに各分野で巣くっているか、各分野各章で個別に見ていくことになります。それは次のとおりです。

〇第1章 「英語という呪縛」
〇第2章 「画一的日本人をつくる文科省教育」
〇第3章 「丁寧、親切、そして傲慢症候群」
〇第4章 「世界標準からかけ離れた日本の新聞・テレビ」
〇第5章 「自国を貶める、事なかれ外交」
〇第6章 「景気低迷は政府の経済失策となぜ見ない」
〇第7章 「農産品輸出を阻むシステム」
〇第8章 「少子高齢化になぜ本気で取り組まないのか」
〇第9章 「変わらぬ政治、変える気がない国民」

 (6)1990年代のバブル崩壊以降、「失われた20年」「失われた30年」となって久しいですが、一向に日本経済向上の兆しも見えていません。そうした中、本書はその一つの回答になっているかもしれないのです。いや本書を通じて、そこに回答を見出すべく、我々は「失われた〇年」からの脱却を図らねばなりません。

カテゴリー: 政治・経済論

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